●コラム
秋葉原通り魔殺人事件をもとに、通り魔殺人の心理を考えるパート4
「 進学と就職で挫折した。 」
です。
パート3の ●通り魔殺人の心理Part3【吉高由里子の『蛇にピアス』】
「 親の厳しいしつけと教育により生育歴に関して問題が発生し、子供の頃から粗暴で自己中心的な性格となった。 」
もよろしくお願いします。
2008年6月8日、日曜日の昼頃、過去最悪の被害といえる通り魔殺人事件が東京秋葉原で歩行者天国が行われている最中に起こりました。
被害者17人の内10人が重軽傷で7人が死亡、そのうち3人は、トラックにはねられたことによる全身打撲や頭部骨折による死亡で、4人は、それぞれ体の1カ所をナイフで刺された失血死でした。
決して屈強ではない、やせておとなしそうに見える一人の男が、なぜそのようなことをしたのかを考えます。
このパート4では、原因の一つとなった挫折と劣等感について取り上げ、
「 進学と就職で挫折した。」
と題して考えます。
再び携帯電話の掲示版サイトで犯人である加藤智大(かとうともひろ)が記した言葉を元に考えてみます。
6月4日 5時55分
「 中学では小学校の「貯金」だけでトップを取り続けた ・・・以下略 」
6月4日 5時57分
「 当然、県内トップの進学校に入って、後はずっとビリ 高校出てから8年、負けっぱなしの人生 」
父親の勉強を教える熱心な教育は、小学時代までしか続かず、そのあとは優秀な弟を教えることに力を注ぐようになります。
今まで過干渉だった親から急に見捨てられたと思った犯人は、このあたりから人生の敗北を強く感じ始めます。
そして、犯人がきっと望んでいたはずの本来の姿の親からの愛情に満たされない欲求不満は、さらに深まっていったと思われます。
6月4日 5時58分
「 自分で頑張った奴に勝てるわけがない 」
親から強制されるのではなく、本人が自ら意欲を持って勉強するからこそ実力がつきます。
犯人には、それが分かっていました。
小学時代は、具体的な目的もないのに、親の愛情を受けたいがばかりに強制的な猛特訓の勉強に耐えてきました。
しかし、高校生となってしっかりと物事を判断できる歳になっても、自分の意志から苦しみに耐えて勉強し何かを獲得した経験が少ない状態で、目的もなく、親の愛情の基盤もない状態では、もはや県内最高の進学校でひとり孤独に勉強を頑張ることはできません。
このようなことから親からの愛情にひずみを感じた犯人は、すでに小学校での段階で卒業文集に自らの性格を「短気」「強情」「鈍感」「どじ」と表現し、鬼のような自画像を描き、「キレた」「キレた」と自分のことを自尊心もなく面白おかしく卑下しています。
祖母によると、高校に入学当初、犯人は「北海道大学に入って、コンピューターの勉強をやりたい」との夢を語っていたようです。
教育熱心だった両親は、高校時代に成績が下がった犯人に対し、部活をやめさせようとしたこともありました。
母親は「本当に何を考えているんだか、分からない」「何を聞いても教えない」などと漏らしたこともあったといいます。
母親は犯人の高校時代について親しい知人に、「2人で食事するのがとても苦痛。(97年に神戸市で連続児童殺傷事件を起こした少年)『酒鬼薔薇聖斗(さかきばらせいと)』と同じ年。怖い。」と話していたとのことです。
祖母は「もっと話をしていればよかった」と悔しそうに話しています。
高校生になって、ひとりの大人の自分という立場から親と接するときに、愛情に欠けた教育をしてきた親という人間を許せなかったのかもしれません。
親は、あきらめずにここでコミュニケーションをしっかりととり問題を解決していれば良かったと思われます。
しかし、言うのは簡単ですが、すでに憎しみと恨みが積み重なって凶暴になった息子を指導するのは、並大抵のことではありません。
犯人は、それから理工系大学進学を目指して失敗し、01年4月、岐阜県内の中日本自動車短期大学の自動車工学科に進学しエンジンの構造や車体整備技術を学びました。
ちなみに犯人が高校を卒業後、弟は仙台の学校に進学しています。
犯人が01年から2年間通った中日本自動車短大(岐阜県坂祝町)の桜谷興道学長(65)と当時の担任講師は、「在籍中には問題はなかった。事件を起こすとは思ってもみなかった」と顔を曇らせています。
犯人は卒業後の進路について「4年制大学に進み中学校の教員になりたい」と話していたとのことです。
2年時のクラス担任を務めた高橋正則講師は、「おとなしい印象だが陰にこもった感じではなかった」と在校時の印象を語っています。
しかし、犯人は2級自動車整備士の国家試験で実技が免除される「実車実習」を受講しなかったとのことです。
面談で進路について尋ねると、教員を目指したいと話し、卒業直前の進学調査では弘前大(青森県弘前市)に進む希望を示していたとのことです。
しかし、親の愛情の基盤をしかりと獲得していない人は、一般的に困難を乗り切り頑張る力に劣ると言われています。(Part3参照)
人生には幾多の試練があり、不安と恐怖が常につきまといます。
親の愛情は、これらを乗り切る基盤となるのです。
かつて成績が優秀だった犯人は、気持ちでは弘前大に進めると思っても、困難なことに挑戦するとなると一人では何もできなくなっていたのです。
2003年に短大を卒業後は、約3年半の間に犯人は派遣社員として3つの会社を渡り歩いています。
最初は工事現場で車両を誘導する仕事を約1年半しました。
その後、自動車工場や電子部品工場で働いていますが、無断欠勤や“行方不明”などを理由に契約を解除されています。
故郷である青森市内の運送会社で、運転手として働き始めたのは07年1月からです。
2トントラックで学校給食用の牛乳を配達していたとのことです。
運送会社によると当初は「人の出入りが激しい業種なので試用期間としてアルバイトでの採用」でした。
勤務態度はまじめで問題やトラブルを起こすことはなく、無断欠勤も一切なかったといいます。
会社側も仕事ぶりを評価して、同年4月1日からは正社員として働いています。
車好きの容疑者にとって運転手の仕事は性に合っていたようですが、わずか5か月半後、突然退職を願い出ています。
理由は「家庭の事情」というものでした。
故郷に戻りようやく「正社員」として本格的に働き始めた矢先に何があったのかについて運送会社の幹部によると「両親の離婚問題で悩んでいた」とのことでした。
実家周辺の住民によると、母親は07年8月中旬に自宅を出て、青森市内の別の場所に住むようになったとのことです。
同容疑者が運送会社を退職したのは同年9月15日で、ちょうど両親が別居状態となった直後に、仕事を辞めたことになります。
親類によると、犯人は以前から両親と関係がうまくいっていなかったと証言しています。
家庭での会話はほとんどなく、実家にいるときも2階の自室にひきこもっていることが多かったとのことです。
そこに追い打ちをかけるように起きた両親の“離婚危機”は、冷え切った家庭環境で犯人が孤立感を深めていった可能性が高いといえるでしょう。
運送会社を退職後、加藤容疑者は静岡県裾野市の自動車工場で「派遣社員」として勤務し、やがて2008年6月8日の凶行に至ります。
犯人にとっては、高校時代から確かに苦難と挫折の日々がありましたが、それだけでは客観的に見て悲惨な内容とは思えません。
しかし、人にはその人が目指した目標や理想があります。
現実がそれに合わなければ、その人にとっては苦痛なのです。
青年期には、自分はこうなりたいという夢がたくさんあります。
でも現実は厳しく、自分がそこまでしかできないことを受け止めるしかありません。
現実の生活に生きている姿が、自分そのものであることを受け止め、それが自己のアイデンティティが確立した姿であると受け止めるのです。
人は、今の現実を受け止めることから第一歩が始まります。
そして、今の現実からできることを考えて一歩一歩進んで行くのです。
でも、実現しない理想をかかげて、不満を当たり散らしているのは自己中心的で幼稚な子供です。
子供の頃の心の傷を癒すことのできなかった犯人は、今の苦しみについて考えて行くうちに、いつの間にか自分を取り巻く社会全体が悪いと思い、その「社会」の象徴である「不特定多数」を惨殺してしまったのです。
確かに社会にはイヤな人がたくさんいます。
そして人間は、不完全ですから、どんなに良い人と思っても深く付き合うと必ず相手の不愉快な部分にぶつかります。
でも、そこを我慢するしかありません。
そうしなければ、一人ぼっちの孤独があるのみです。
その我慢という苦しい忍耐も、親のしっかりとした愛情の基盤があるからこそ耐えられます。
その親の愛情の基盤のない人は、それを他人や物に求める傾向にあります。
愛情に満たされない寂しさは、やがて耐えられない苦しみとなり、苦しみを逃れて自分を守りたいが故に周りのせいにして攻撃を始めるのです。
そのような問題を解決するには、まずそれらのことについて自分で気づくことが大切です。
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